総距離80kmの「奥辺路トレイル」の未来
さて、明けて2日目。いよいよ、昨日みんなで手を入れた「瀬戸谷」を走る。
瀬戸谷とは、中川さんたちが普段から手入れをしている8kmほどのトレイルで、元々40〜50年ほど前に集落と小学校を結ぶために整備されていた生活道だ。当時、この道を歩いて通学していたおじいちゃん、おばあちゃんは現在も麓に住んでいるそう。
「ここの道普請が完了したら、トレイルヘッドにある小学校の子たちと、そのおじいちゃんおばあちゃんたちに一緒に歩いてほしいと考えています」
ちなみに、このプロジェクトでは新たに登山道を作るのではなく、あくまで既存の古道を整備して再生させるため、想像以上に1日の成果が目に見えやすい。人数さえ集まれば、1日で数kmもの距離を整えられるのだとか。
アスファルトから山へと一歩踏み入ると、昨日手を入れたトレイルが美しい森の中へとランナー達を導くように延びていた。
「トレーニングのためだけに山に入るのではなく、納得して山から下りて来られるように、足の裏から伝わるものや耳や目から入る情報も大事に走ってみてください」と中川さん。
龍神村自慢の森を走り、お昼には地元名産の肉厚椎茸を使ったハンバーガーに舌鼓を打つ。下山後は名所名跡の解説を聞き、温泉を満喫してもらうなど、参加者たちはさまざまな形で龍神村の魅力を体感したようだ。
「自分で手を加えたトレイルを走ってもらう体験を通して、どんな道が走りやすいのか、魅力的な道ってどんな道なのか、といった新しい発見や刺激を提供することはできたのではないでしょうか。自然を観光資源とする場合、あまり小難しい説明ばかりせずに、体験で腑に落ちてもらうのが理想です。僕は伝えたいことがあり過ぎて、説明し過ぎてしまったかなという反省点はあります。あとは地元の方と参加者を交流させる仕掛けがもうちょっとあってもよかったかな」
今回の開催を通して、メンバーたちはいくつかの反省点と共に、このプロジェクトが十分に観光資源になるという手応えを得ることができたそう。なんと言っても、自ら整備したトレイルを走れるのは、他では体験できない魅力だ。
「奥辺路はトータルで80kmほどのメインルートと、20kmほどのサブルートで構成されています。ハイカーやランナーの間に道普請というスタイルが広まれば、それぞれの地域から整備し始めたトレイルが、1つの大きな“奥辺路トレイル”として再生される将来も見えてきます。僕らはこのプロジェクトを成功させて、モデルケースになることが目標です」
海外とは異なり、日本国内ではトレイルを中心にした観光事業が成り立っているところはまだまだ数少ない。龍神村で道普請を中心に据えた観光が成功すれば、同様の活動を始める地域も増えていくだろう。
1泊2日で山に出かけて、初日は道を整え、翌日はそこを歩いたり走ったり。ゆくゆくは、そんな山と道普請を組み合わせたスタイルで週末を楽しむ過ごし方が、ハイカーやランナーの選択肢の1つになるのではないか。中川さんは、そんな未来を見据えている。
イベントで使用したシューズ
『モントレイル トリニティ AG』
モントレイルが満を持して発売する新作シューズ。ソールに樹脂製のプレートを内蔵し、トレイルでの踏み込みに対し優れた反発性を発揮します。さらに、反発性のある機能、テックライトから30%軽量で、少ない力で踏み出せる優れた反発力のあるテックライトプラスを搭載。硬質EVAをミッドソールに一体成型し、足裏の保護と軽量化を図ったモントレイル独自のプロテクションシステムが走りをサポート。アウトソールには、グリップ力を発揮するソール、アダプトトラックスを採用。濡れた路面や泥など難しいコンディションでも高いパフォーマンスを発揮します。
「トリニティ AGは“ランナーを走らせてくれるシューズ”だと感じます。従来のトレイルランニングシューズは、山中での足のプロテクトや滑りにくいことを重視したモデルが多かったのですが、これはまったく発想の違う機能的なシューズ。重心の位置が少し前にあって、腰がスッと立つので、バランスが良いところに自然と足が出ます。
今回のイベントでは、トレイルランニング未経験の地元のメンバーも参加したのですが、普段靴に頓着がない彼らが履いて『勝手に足が前に出る。この靴すご!』と言っていたのが、トリニティ AGの実力を物語っていると思います」
「ソールには樹脂プレートが入っていて、そこに重心が乗る構造なので、ローリングというよりは着地した時点で重心が前に移動し、スッと次の一歩が出るイメージで走れます。クッション性も高いので、ロードのトレーニングで使ってもアスファルトの衝撃を感じづらいことも特徴です。カカトはしっかりホールドされる感覚があり、ソールは木登りをしても滑らないのでクライミングシューズのような信頼感があります。
僕は、どちらかと言うとビギナーよりも経験者におすすめしたい。レースの後半に疲れて足が重たくなって足だけで走っているような場面でも、これを履いていれば体幹を使って走れるようになりますよ」
Text:池田圭
Photos:小関信平