長野県・安曇野でのくらし
──コロナ禍前後で生活は変わりましたか。
まず、海外に行けなくなって、当初はガイド仕事がパタっとなくなりました。1回目の緊急事態宣言の時は特に暇だったので、かみさんと一緒に畑を始めました。思ったよりもいきなり美味しく作れて、早速ハマってしまいました。元々やりたい気持ちはあったけど、夏場は日本にいないかったので、できなかったことの1つでしたね。
──他に変わったことありますか。
同じタイミングで、アパートから山中の一軒家に引っ越しもしました。コロナ禍になってもちろんいろいろと大変なこともありますが、僕らからすると今までできなかったことにチャレンジしたり、日本の山のいい部分を再認識するきっかけにもなった。うちのかみさんは車の運転が苦手だったんですが、運転できるようになったり。世の中の見方次第では、悪い事ばかりではないのではないでしょうか。
──庭がある生活はいかがですか。
よく火を焚いています。昼間だったらお茶を飲んだり、夜だったら焼肉をしながらお酒を飲んだり。真冬もダウンを着ながら焚き火をしていました。自分でリフォームしたり、ガレージにホールドを付けたり、やることは尽きません。安曇野(あづみの)に初めて引っ越してきた時は、ちょっと違和感があったんです。でもここは、越してきた頃からすんなり馴染めた。今では、昔から長いことここに住んでいたような気がします。
──安曇野に越してきたのは何年前ですか。
国際山岳ガイドの受験が終わってからなので、5年ほど前です。その前は東京に長いこといました。引っ越し先としては、甲斐駒も近いし、クライミングするにもいい北杜市の明野も候補地でした。国際山岳ガイドを受験するためにはスキーが必須なんで練習したんですが、これが楽しくなってきてしまって、滑りやすさを優先して安曇野に来ました。
──安曇野の魅力といえば?
なんと言っても、豊かな自然でしょう。アルプスの伏流水から湧き出る水はとても美味しいし、四季折々変化していく自然を間近に見ながら生活できます。時に厳しくもありますが、それも含めて肌で感じられるところがいい。うちの庭にも、ミツバやフキが出てきたりします。
──お気に入りのスポットを教えてください。
安曇野市民憩いの場、光城山(ひかるじょうやま)はよく行きます。安曇野の平野を挟んで北アルプスの山々と対峙する位置にあり、晴れた日の眺めは最高です。トレーニングにも使いますし、お花見にも出かけます。登山口から山頂まで、登山道沿いにソメイヨシノが植えてあり、下から段々桜の開花が始まって、咲いていく様は昇り竜のよう。遠くからでも見えるので、あそこに桜が咲き始めると「今年も春がきたな」って感じられる春の風物詩です。豊科温泉「湯多里(ゆったり)山の神」もおすすめ。谷間なんで景色はよくないけれど、あそこのお湯はこのあたりで一番好きかな。
──行きつけのお店はありますか。
僕、じつは週1に制限してるくらい、ラーメン好きなんですよ。安曇野はラーメン激戦区なんで、おいしくないと生き残れません。イチオシは「ラーメン万咲」。どちらかというと家系で濃厚な豚骨ラーメン。しおラーメンがおすすめです。あとは「麦一粒」も外せない。そばは「そばの庵はや田」。信州そば粉100%使用で、その日に仕入れたそば粉がなくなり次第閉店というこだわりの店です。そば粉だけで練った十割そばがおすすめ。
──おすすめの土産はありますか。
隣町ですが、福源酒造の「安曇野」ってお酒は結構美味しいですよ。あとは、松本側ですが笹井酒造の「笹の誉」も、辛口で料理を食べながら飲むのに調子いい。あまり出回っていない銘柄ですが、近所の風穴で寝かせたり、お酒にジャズ聴かせたりしてるらしいです。
──最後になりますが、ガイドをお願いしたいゲストに一言お願いします。
僕らガイドは技術面を補完したり、緊張を解きほぐしたり、ゲストの能力を存分に発揮させるサポートはできます。でも、登るのはお客さん自身なので、体力面でのサポートはできません。ガイドに頼んだからといって、急に200%の力が出るわけではありません。そこはお客さんもある程度努力してほしい。受け身にではなく、自分から知りたいことを学びにくる姿勢のお客さんは伸びます。ぜひ、テーマを持ってご依頼ください。
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●プロフィール
杉坂勉(すぎさか つとむ)
1968年、神奈川県・横須賀市出身。国内では夏季は北アルプスの穂高岳や剱岳を中心に、クライミング系のガイドを行う。冬季は八ヶ岳でのアイスクライミングや登攀系のガイドと、バックカントリーでのスキーツアーとマルチに活動。 海外では2015年に国際山岳ガイド資格を取得し、ヨーロッパを中心にガイド活動を開始。
Text:池田 圭
Photos:根本 絵梨子(※一部を除く)