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2021.08.10

Daily Life of Athletes, In the case of Takemitsu Ueno.
量の楽しみを超える質の追求 <テレマークスキーヤー 上野岳光>

超人的なパフォーマンスを見せるアスリートたちは、フィールドを離れるといったいどのような日常を送っているのでしょうか。どのような街や家に暮らしているのでしょうか。彼らのバックグラウンドからアクティビティの魅力、日々のトレーニングや地元の行きつけまで、根掘り葉掘り伺ってきました。第1弾はテレマークスキーヤー、上野岳光さん。

独創的なスタイルの滑りを創造するテレマークスキーヤー・上野岳光さんは生粋の野沢温泉ロコ。あちこちから湯煙が立ち昇る温泉街のど真ん中に暮らしながら、冬はテレマークスキー、夏はマウンテンバイクと、一年を通じて野沢温泉の山を駆け回っています。「野沢温泉エリアで十分に楽しめるので、外の地域に遊びに行く機会は少ない。なので車も持っていないんです」とまでプロに言わしめるフィールド、野沢温泉のポテンシャルとはいかに。もはやスキーはアクティビティではなく、ライフスタイルの一部になっているという、上野さんのデイリーライフにお邪魔します。

【Profile】
名前:上野岳光 Takemitsu Ueno
年齢:36歳
出身地・居住地:長野県野沢温泉村
職業:テレマークスキーヤー / マウンテンバイクライダー
家族構成:妻と子供と3人暮らし
愛車:車は持っていない。自転車はSPECIALIZED / TURBO LEVO SL
年間滑走日数:100日以上。12〜3月は毎日
趣味:釣り。特に最近はヘラブナ釣り
主なリザルト:インターハイと国体2位。高校選抜優勝

1 Daily Life of Athletes, In the case of Takemitsu Ueno.<br>  量の楽しみを超える質の追求 <テレマークスキーヤー 上野岳光>

▲写真提供:shoendo

テレマークスキーとの出会い

──まずはざっくりと経歴を教えてください。
野沢温泉生まれ、野沢温泉育ちです。物心がつく前からスキーを始め、学生時代はアルペンレースに取り組んできました。大学1年生の時に全日本ナショナルチームに選ばれたのですが、思うように成績が伸びず、卒業時にレースには区切りをつけました。その後、雑誌「スキージャーナル」の編集部で4年間ほど働き、野沢に戻ってきて現在に至ります。

──競技スキーを引退してから、テレマークスキーを始めたのはなぜですか。
兄が2人いて、僕が高校生の頃にはフリースタイルスキーヤーとしてメディアにも取り上げられていました。尊敬していたし、フリースタイルってかっこいいなと思っていたのですが、歳が離れていたし、心のどこかで同じことをしても兄たちには勝てない、とも思っていました。ならば、自分は違うことで兄に認められたい。そう考えている時に、テレマークスキーと出会ったんです。

──テレマークスキーならではの魅力とはなんでしょう。
とても自由で、型にはまらない滑りができることかな。スキーとスノーボードのいいところどりな乗り物で、アルペンスキーをタテ乗り、スノーボードをヨコ乗りとするならば、テレマークスキーはナナメ乗り。スキーの動きもスノーボードの動きもできるんですよ。

──上野さんの滑りのアイデアの源泉は?
今はテレマークからではなくて、フリースタイルスキーの動きを取り入れたり、スノーボーダーの滑りを参考にして、自分なりのスタイルを模索しています。特に横ノリ系の滑り方を取り入れることが多いです。

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▲写真提供:shoendo

「僕にとってのスキーは日常生活の一部」

──年間どのようなスケジュールで活動しているのですか。
僕の実家は、野沢温泉スキー場のゲレンデ中腹で「パノラマハウスぶな」という食堂を経営しています。冬の間はそこの手伝いをしつつ、週末はスキースクール主催のバックカントリーツアーのガイドをしたり、テレマークスキーのプロライダーとして活動しています。仕事が落ち着く4月くらいになると、野沢温泉以外に滑りに行く余裕も出てきて、新潟県の妙高に出かけたり、トリップに出たり。夏場は兄の経営するスキー&バイクショップ「COMPASS HOUSE」で、自転車のメカニックをしながら、野沢温泉周辺の山を走るMTBツアーのガイドとして活動しています。

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──年間滑走日数はどのくらいですか?
12〜3月はお店を手伝っていることもあって、シーズン中はほぼ毎日。年間だと100日以上は確実に滑っています。

──では、いい日は逃さずたっぷり滑れるのですね。
じつは仕事柄もあって、朝イチパウダーを滑ったり、一日滑ることは少ないんですよ。夕方、仕事帰りに一本だけ滑る程度の日が多いです。そんな環境のせいか、最近はパウダーよりもすっかりザラメ派(粒の粗い積雪)です。若い時は、やっぱり量を一杯滑りたい願望があったんですけど、今はいかに一本の質を高められるかを考えています。

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──フィールドに住んでいるのに、もっとガンガン滑らないのですか。
恵まれた環境にいるのに、なんでって思われがちですけど、僕にとってのスキーは日常生活の一部。日常とスキーを区切れないんですよね、もはや。通勤時の交通手段でもあるので、皆さんが電車に乗って通勤するのと同じような感覚でスキーを履きます。仕事帰りに、どこの面をどう滑って帰るかを考えるのが面白い。一本だけ滑る面を選ぶのは、サラリーマンの方が帰りしなにどこの居酒屋で何を飲もうか悩むのに似ていて、毎日その時間が楽しみで仕方ない。

──滑りを楽しむために特別なトレーニングはしていますか。
冬はスキー、夏は自転車に乗るくらいで、特別なトレーニングはしていません。きついトレーニングをすれば、できるようになることもあるとは思うのですが、それでは怪我もするだろうし、なにより楽しくない。無理をせず、今の体でどこまでできるか、どう楽しめるかを考えています。

──滑りに行ける日が少なくても上達できるコツがあれば教えてください。
想像することが大事です。僕は1日一本滑る前にどう滑ろうかイメージして、滑り終わったらまたそれを振り返って、できたことやできなかったことを思い浮かべます。なんとなくたくさん滑るよりも、一本をしっかり味わうことは上達に繋がると思います。あとは、現状の体力と筋力を自分で把握することも大切。歳を重ねると体が変わってくるので、昔のイメージに縛られないように気をつけています。イメージに体がついていかないときにケガをすることが多いので。

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▲写真提供:DAIGO TAKEUCHI

「道具も滑りも、量より質」

──ウエア選びで重視する要素はなんでしょう。
シーズン中にかなりの日数着るので、まずハードシェルは耐久性を重視して選びます。シェルを使い分けるよりも、中に着るミドルレイヤー、ベースレイヤーの組み合わせで、その時々の状況に対応できる組み合わせを考えています。ミドルとベースは、日常着としても併用できるものを選ぶことも多いです。

──では、ギア選びではいかがですか。
ハードギアに関しては、滑るシチュエーションに合わせて乗り換えられるよう、タイプの違うものをいくつか揃えています。使い方、滑り方の数だけ、本数を揃えているイメージ。使用するときには“どう使うか”を思い浮かべながら選ぶことが大事です。本当はウエアは1着、板も1本で全て対応できるのが理想ですが、突き詰めるとどうしても数が増えてしまいますね。

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──年間何本くらい板を新調するのですか?
プロはたくさん持っていると思われがちですが、手元に残すのは意外に少ないんです。皆さんと同じで試乗会でいろいろな板に乗ってみますが、本当に必要なものだけを選ぶと毎年1〜2本くらいでしょうか。

──道具部屋がとてもきれいですね。整理整頓法についてこだわりはありますか。
シンプルですが、ものを持ちすぎないように気をつけています。同じようなタイプの新しいギアを手に入れたら、古いものは手放すようにする。本当によく使う道具って、じつはそれほど多くないんですよ。道具も滑りも、“量より質”。

──最近、買ってよかったものはありますか。
ちょっと高かったけど、去年買ったスペシャライズドのe-bikeです。バッテリーがかなり小さくなって、総重量は20kg弱くらい。使い方次第で60kmくらいバッテリーは持ちます。普通の自転車で1時間かかるところを30分くらいで登れて。夕方、仕事終わりにそのまま上がって、下ってっていうときにも楽々。僕はほとんど野沢温泉から出ないので、車は持っていない分、思い切って自転車に投資しました。

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