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2021.07.21

地方暮らしに憧れる人々に贈る、東京→北海道移住エッセイ OPEN THE DOOR 第6回 憧れの薪ストーブ生活(3)

抽選でもらってくる

「伐採木の無料配布」のお知らせも、見逃せない大事な情報だ。

そのような「その情報を必要とする人が絶対数としては少ないが、確実に存在するローカル限定情報」というものは、「地域情報誌」によって手元に届くことが多い。

うっかりすれば見落としそうな、中面の募集欄の隅に小さな文字で書いてあるのである。
募集主は地域の土木センターや公園、大学など様々だ。
誰がこんな記事を読んでるんだろうねぇ、と思う細かい記事である。私が読んでいるのだ。

それを見逃さず、電話やメールで申し込むのだが、無料でもらえるものはやっぱり誰にでも魅力的なのだろう、必ず抽選制となる。
同じように宝探しを頑張っている薪ストーブユーザーがこの地にはたくさんいるんだと妄想が膨らんできて、一人で勝手に胸を熱くする次第だ。

ある日、とある公園の管理事務所による募集に応募し、抽選に当たった。
公園内で大規模な伐採を行った際に出た丸太の無料配布である。

いつものように車にビニールシートや軍手等の「丸太もらいセット」を積み込み、現地へと向かう。
当日は小雨。こうした無料配布はよほどの土砂降りでもない限り中止にはならない。

ここで、野外作業時の服装について。
雨が降るからといって登山で使っているレインウェアを着るのは、例えば丸太でひっかき傷ができたりしたら惜しいので、基本的に使うことはない。

かといってすぐ破れてしまうような安い雨ガッパも実用的ではない。
ゆえに現在は、着古した“先代の”レインウェアが、「雨天時の野良仕事用」として活躍している。

ただし、野良仕事というものは登山と違って雨に打たれる時間は少なく、防水透湿というよりは、どちらかというと多少ひっかけても破れないというような耐久性が求められるシーンが多い。
軽量さとトレードオフに耐久性はそこそこそれなりである登山用レインウェアは、トゲだらけの丸太を抱き抱えたり刃物を扱うような野良仕事には本来は向いてないと思われる。
だが、元々は自分が好きで選び、山々を一緒に歩いた相棒である。
首筋や袖口には、俺の汗くささ…、いや、あの山の匂いが残っているのだ。
羽織れば自然と気合が入る。

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駐車場に車が行列を作っている。
駐車場の端には、おびただしい量の丸太の山。山というよりは、もはや山脈といった趣だ(上記、写真参照)。
1申込につき、車1台に積めるだけの積み放題、ただし、チェーンソーは使用不可&大型トラックや業者は除く、という条件である。

軽トラや、ハイエースのような大型車が心底羨ましく思えた。
当時の我が家の車は、それほど多くは載せられないハッチバックタイプの車である。
(現在はこうした反省を生かし、ゴツいSUVに乗り換えた)

まぁでも無料でいただけるのだから、ありがたい。
何よりこうしてもらいに行くことが、ちょっとしたイベントみたいで面白い。
ここを楽しめないと、薪ストーブライフはただの消費活動となり、いまいち味気ないものになるだろう。

抽選番号順に案内された場所まで車を寄せ、みんなジャンジャンと積み込んでゆく。
一度に車を寄せられるのは10台まで。順番に入れ替わりながら、みんな我先にと目的の木を探してゲットしてゆく。

様々な樹木があった。
北海道ではどメジャーな白樺をはじめとして、他にミズナラやカシワ、タモ、カエデやクルミなどの落葉広葉樹、エゾマツのような自然木の他にコニファーと総称される園芸系の針葉樹がたくさん。さらに公園ならではだが、イチョウにプラタナスやポプラ。もはや種類のよくわからない朽木や、岩のような根の塊などもある。

薪にするのに良い木は、ナラ類などの広葉樹の密度の高い幹だ。長く燃え、燃料として最も効率が良い。それが第一目的。針葉樹は次のお目当てとなるが、特に松系は「ヤニ」のおかげで火つきがよく、焚きつけ段階に温度をあげるのに向いている。ただし、密度が低いので燃え尽きるのが早く“火持ち”が悪い。ゆえに、いっそのこと薪割りの際には細く割って、焚きつけ専用としてしまえば、その個性を最大活用できる、というわけである。
ちなみに、白樺はその美しさからも人気は高いが、密度がスカスカで薪としての能力はイマイチ。ただし皮だけを見れば非常に燃えやすく、針葉樹同様に焚きつけ材として最高である、ということをここに書き添えておこう。

さらに大事な条件が2つある。1つは「自分が扱えるサイズ感」であること。
丸太山脈の中にはとんでもない巨木の幹も混じっており、圧倒的な物量感を目にするとつい持って帰りたくなるが、そういうものは一人では動かせないほど重く、欲にかられて頑張って持ち帰ったところで、後々扱いに困ることが多い。

2つめは「うねっているものや、“股”などの割りにくい部分は避ける」ということ。
割りにくいものを割る、そのために頑張る手間を考えたら、やはり難しいものは避けたい。パカンと一撃で、素直に割りやすいものを選びたい。

ほどよい種類の、ほどよいサイズの木。これを狙うのである。

山脈を歩き回り、自分にとってのお宝を探す。
繰り返しになるが、みんな競うようにお宝を選んで持っていく。
すでに順番が先の人の手によって、いいやつはなくなっているので、自分の目的に合わない木を動かしたり掘ったり、さらには妥協をしながらである。
家族やチームで訪れている人たちは、二人で運んだり、別々に動けるからいい。
こういう時、一人だとものすごく必死である。

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さて、汗だくになりつつもそれなりに良さげなやつを見定めて何本かゲットし、余裕ができてくると、他の人がどんな木を選んでいるのか気になってくる。
チラチラと横目で観察すると、見るからに「薪」を目的にしている人は6割ぐらいで、その他の人は、珍しい木や、綺麗な木を選んでいる人も多いように思った。

あとで聞いた話では、例えば仕事や趣味で木工だったり、内装などをしている人が材料を探しにきているということがあるようだ。加工して商品や作品を作ったり、店舗の内装などにありのままの風合いを活用するのかなと想像する。

確かに、薪にするには細いが、太さが綺麗に揃った白樺の枝をたくさん集めている人が実際にいた。何を作るのか、生まれ変わった姿にも思いを馳せる。

自分はもっぱら薪用に集めているわけだが、時には燃やしてしまうにはもったいないと感じる良い木を手に入れることもある。そういうものはとっておき、庭作りやDIYの材料にする。
我が家では子供部屋の仕切り壁を自作して設置しているのだが、そこでも白樺の丸太を使ったし、樹皮を剥いてテラス用の丸太椅子を作ったり、ちょっとした花壇の仕切りにも使ったり。様々な木と触れ合う暮らしは楽しいものだ。

8-1 地方暮らしに憧れる人々に贈る、東京→北海道移住エッセイ OPEN THE DOOR 第6回 憧れの薪ストーブ生活(3)

▲『アウトドライエクストリームレインジャケット』¥24,200(税込)

説明によれば、本来は生地の内側に使用する防水メンブレンというフィルムを外側に貼っているという挑戦的かつ独自のテクノロジー(アウトドライエクストリーム)で、他の防水テクノロジーと違って吸水して重くなることはなく、コロンビア史上最高の防水透湿機能を備え、永続的にはっ水を維持するということのようである。
近頃筋トレばかりしているので、不自然に胸板を強調したがっている写真で申し訳ない。蛇足ついでに若干お腹を凹ませていることも参考に記しておこう。

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パッとみた印象は「ハイテク感ある」、というのが正直なところ。これをよしとするかは好みの問題となるのだろうが、個人的には未来感を前面に押し出したこの手の商品は嫌いじゃないタイプだ。まるでバットマンが着用する外骨格のバトルスーツのような…なんて中2(小4?)的な男の子ごころが胸の深いところに宿っていることを確認する。さて、手に持ってみるとその軽さにびっくり。これはいい。実際に着てみると軽快で、縫製がよく動きを邪魔しない。北海道はまだまだ真冬ゆえに、このジャケットを実戦デビューさせるのは先になりそう、ということで、とりあえず試しに霧吹きでこれでもかと水をかけてみた。
当たり前だが、めっちゃ弾く。中はもちろんサラサラだ。
おろしたてのレインウェアなら、どこのメーカーのだってみんな最初はそうだ、とも言えるかもしれない。
真価が問われるのは、何年か使ったあとだ。
雨に打たれ、時には泥もつき、内側からは汗がムンムンとしみる。実戦の現場では綺麗事ばかりでは済まないから、ラーメンの汁をうっかりこぼしちゃうことだってあるだろう。
最初は無敵だったのに徐々に撥水力が弱まって、じっとりと重くなる。どんな立派なふれ込みのレインウェアだって、結局そうだったじゃないか。あの気持ちを俺は忘れていない。
この『アウトドライエクストリームレインジャケット』はどうなんだろう。期待に応えてくれるのか。説明通りどんなに時が経ってもパリッと撥水力を保つのか、これから見届けていきたい。

蒸れが気になるところだが、脇の下にはベンチレーターを備えており、もちろん防水透湿機能もバッチリ。蒸し風呂は回避できそうだ。
これ以上はレビューできないのが申し訳ないが、個人的には新しいジャケットを手にして春を待つ楽しみができたのでルンルン気分である。
ひとまず壁にかけて眺めながら、雪が雨に変わる季節を待ってみよう。

次回は「薪ストーブで作る料理」について書いてみたい。
ストーブなので天板の上に鍋をのせ加熱するといった調理法はもちろん、実は炉の中をオーブンのようにも使えるのだ。

お楽しみに。

10-1 地方暮らしに憧れる人々に贈る、東京→北海道移住エッセイ OPEN THE DOOR 第6回 憧れの薪ストーブ生活(3)

▲白樺の皮を剥がしたところ。最強の焚きつけ材。

プロフィール

信濃川日出雄
漫画家。代表作は『山と食欲と私』。
2001年よりプロ漫画家デビュー。2015年から新潮社「くらげバンチ」にて連載をスタートした『山と食欲と私』が累計150万部を超え、現在も好評連載中。PR企画やグッズデザインなどにも積極的に参画、コロンビアとも多くコラボレーションしている。

Text, Photos:信濃川日出雄

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