中部山岳国立公園内にあり、北アルプスの南端・乗鞍岳の裾野に広がる乗鞍高原(のりくらこうげん)。標高1,500mに位置し、登山やウィンタースポーツの拠点でありながら暮らしが営まれてきた場所だ。そんな乗鞍高原に魅せられ、この地に住みながらアウトドアライフを満喫している人々にフィーチャー。コンドミニアム&アウトドアスクール「ノーススター」の山口謙さんに、乗鞍高原での仕事や暮らし、乗鞍高原に感じていることなどを伺った。
自宅からバックカントリーまで徒歩でアクセスできる環境
白樺に囲まれた広い敷地に建つ、木造二階建ての大きなロッジ。ここは、乗鞍高原でアウトドアスクールや宿泊業を営む「ノーススター」の本拠地だ。
代表の山口謙さんは、このノーススターでの仕事に加えて、のりくら観光協会の役員兼企画宣伝部長を担い、アウトドアアクティビティが体験できるキャンプ場「乗鞍BASE」の運営にも関わりながら、ここ乗鞍高原での暮らしを紡いでいる。夏はマウンテンバイク、冬はスノーボードを楽しんでいる山口さんが乗鞍高原での生活に魅力を感じているのは、フィールドへの圧倒的な近さだという。
「自宅から徒歩でトレイルやバックカントリーへ行けます。この近さは、なかなかないのでは? 自宅の裏山に密な林があって、コンディションがいいときはひとりで登って滑ったりしています。もちろん、リフトは使っていません(笑)」
千葉県で生まれ育ち、東京で働いていた山口さんが乗鞍高原へ移住してきたのは、2006年のこと。一番最初に乗鞍高原を訪れたときは、車のドアを開けた瞬間に感じた空気の清涼感に驚いたという。
スキーにのめり込み、スノーボード、マウンテンバイクとアクティビティの幅を広げていった山口さん。「いつか雪のある場所で暮らしてみたい」「子どもは自然に囲まれた場所で育てたい」という思いを抱いていたところ、ノーススターの当時の社長から誘いを受け、ここで働き暮らすことを決意したそうだ。
「のりくら高原トレイルズ」はなぜ生まれたのか
乗鞍高原には、ハイカーやマウンテンバイカーが楽しめるトレイル「のりくら高原トレイルズ」がある。既存の登山道だけでなく、山菜採りや牧畜、木材生産など地域の暮らしのために利用されていた山道を活用し、8つのルートを開設。山口さんは、このトレイルの立ち上げに尽力してきた。
「乗鞍高原には、20年近く観光客が減り続けているという課題があります。温泉やスキー場などいろいろあるんだけど、“これ”というものがないから、情報発信がばらけてしまってイメージが打ち出せていなかったんです。2014年にトレイル研究会が立ち上がり、土地所有者や住民、利用者のそれぞれの目線で、『どういう使い方が乗鞍高原に合っているのか』を話し合いました。乗鞍高原の魅力は、温泉だけでなく、山だけでもない。高原内に多くの道があるし、滝めぐりもできる。そういった、たくさんの魅力を『のりくら高原トレイルズ』としてブランディングすることになりました」
コロナ禍に突入し、観光業は大打撃を受けた。その状況を打破するための環境省の補助金にトレイル整備事業が採択され、のりくら高原トレイルズはいよいよ具現化することとなった。とくにマウンテンバイクは国内で気軽に走れる場所が非常に少ないため、こうしたトレイルは貴重な存在だ。そのうえ国立公園初となるマウンテンバイクが利用可能なトレイルの登場ということで、多くの注目が集まっている。今後、インバウンド需要が復活したら、乗鞍高原に人を呼びこむ大きな武器となることは間違いないだろう。
「乗鞍高原が遊べるフィールドだということをPRするために、2022年9月にコロンビアさんや松本市と組んで『乗鞍アウトドアサミット』というイベントを開催し、2日間で900人もの来場者に来てもらうことができました。今年も秋にコロンビアさんとイベントを開催したいと思っています。今回はキャンプをメインに参加されるお客様が多かったので、次回は、そうした人々に提案できるアクティビティをうまく取り入れたいですね。たとえば滝をめぐるハイキングとか、そういったガイドツアーを作りたいと思っています」