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2021.08.05

『山と食欲と私』作者・信濃川日出雄氏の山ごはん原体験とは 〜山と“はじめての山ごはん”と私〜

いよいよ始まった“勝手にカツカレー弁当” at 谷川岳

その後、漫画の仕事にも余裕ができ、仲間たちといくつかの山行を重ねた。
その中で“山ごはん”という観点から特に印象的な思い出があるのは2011年夏の谷川岳である。

同行はやはりI君。

この日、私はひとり密かに「ちょっとI君に内緒で山ごはんを頑張ってみよう」と計画していた。やはりしつこい性分なのである。驚かされるばかりじゃなく、自分だって友達を驚かせてみたい、何か画期的な一石を投じて輝きたい。野心があった。

また、もう1つ理由があった。その年の夏に、単独で北アルプスを連泊縦走する予定を立てていたのだ。そのための体力づくりであり、前哨戦であり、山ごはんの練習でもあった。
前日から凝った用意をして当日に臨んだ。

5 『山と食欲と私』作者・信濃川日出雄氏の山ごはん原体験とは 〜山と“はじめての山ごはん”と私〜

▲この頃から「いつか登山を題材にした漫画を描くことになるかもしれない」という予感があり、資料写真という意味でさまざまなショットを撮り溜めるようになった。

到着し、意気揚々と乗り込んだ谷川岳だったが、あいにくガスで真っ白。
景色は望めずとも“体力づくり”そして“山ごはん”という目的がある。モチベーションは十分だ。

山は混んでいた。山頂付近になんとか二人分の場所を確保して山ごはんタイムである。
I君は定番のカップラーメン。
私が用意していたのは“カレー”と“とんかつ弁当”である。
これを別々に食べるのではない。とんかつ弁当に自宅から持参した手作りのカレーを、現地で熱々に温め、弁当にぶっかけて食ってやろうという壮大な計画なのである。

6 『山と食欲と私』作者・信濃川日出雄氏の山ごはん原体験とは 〜山と“はじめての山ごはん”と私〜

▲グツグツいい匂い。

「すげぇ」
I君の驚く(あきれた?)声が聞こえる。よし、やったぞ。どうだ、美味しそうだろう!
「君のごはん美味しそうだね」って言わせたいんだ。
小さなことで喜びを感じる、レベルの低い私である。

下品な性格で申し訳ない。エンターテイナーだと言っていただけるとありがたい。
まさに『山と食欲と私』の源流、はじめの一滴である。ここから始まったのだ。

「うまい!」

とんかつ弁当は冷えていたが、もちろん普通にうまい。そこに熱々のカレーをのせるだけでさらに何倍も美味しくなった。名付けて“勝手にカツカレー弁当”。展望はゼロでも大満足だった。

7 『山と食欲と私』作者・信濃川日出雄氏の山ごはん原体験とは 〜山と“はじめての山ごはん”と私〜

▲大盛り弁当が基本です。

その後

それからーーー。
2011年の末に東京から北海道に移住して、いくつか作品を描いたのちに『山と食欲と私』をスタートしたのが2015年。それから現在まで、1本ひたすらに山ごはん道を歩いている。

北海道の山もたまに登るが、自分が登りたい山ではなく“鮎美ちゃん(コミック『山と食欲と私』の主人公・日々野鮎美)が登る山”を歩くのが現在の自分にとっての最大のミッションだ。全国どこへでも登りに行く。連載開始以降だけでも100座くらいは回ったと思うが、まだまだ登りたい山や見たい景色、食べたいものが尽きない。

8 『山と食欲と私』作者・信濃川日出雄氏の山ごはん原体験とは 〜山と“はじめての山ごはん”と私〜

▲角煮丼。しんどい山歩きにはお肉が一番。

ちなみに、私を山ごはんの目覚めへと導いたI君は、現在はなんとこの『With Outdoor』を運営しているコロンビアで働いており、こうして執筆の依頼をくれたのも彼である。

東京にて一緒に山に行っていた当時は登山とは関係ない企業にいた彼だが、自然好きなあまりにアウトドア系企業に転職先を求めたということだ。

「山は動かない。しかし、関わる人間の人生を動かす」

誰の言葉かって? 私の言葉である。私がそうであるように、彼もまたそうなのだ。
奇縁というかなんというか、恩人だ。感謝しかない。

山をやっていると、山をきっかけに新しい人生へと舵をきった話をよく耳にする。
珍しいことではない。不思議な力があるのだ。
それはほとんどの場合、ポジティブで希望に満ちた力である。
私は勝手に、そんなふうに山に人生を動かされたみんなを同士だと思っている。
そう思っていた方がこれから新しく誰かと知り合った時に、まるで昔から知っていたように仲良くなれるから。友達になるときは、はじめから友達のように話せばいいのだ。

私(と鮎美ちゃん)の山旅も、まだまだ続く。
どこかで出会ったら、よろしくお願いします。

9 『山と食欲と私』作者・信濃川日出雄氏の山ごはん原体験とは 〜山と“はじめての山ごはん”と私〜

▲料理の腕前とともに、写真の腕前も多少は上達しました。美味しそうでしょ?

今回の商品レビュー

10 『山と食欲と私』作者・信濃川日出雄氏の山ごはん原体験とは 〜山と“はじめての山ごはん”と私〜

▲『セカンドヒルウィメンズジャケット』¥22,000(税込)

WITH OUTDOORで掲載中の連載コラム『地方暮らしに憧れる人々に贈る、東京→北海道移住エッセイ OPEN THE DOOR』と同様に、今回もコロンビアさんおすすめのアイテムをレビューしました!

(信濃川の妻のレビュー)
「いつもはマルチカラーにはなかなかチャレンジしないけれど、それぞれの色が落ち着いた配色なので、気負わずさりげなく着られます。着心地は身体につかず離れずでストレスフリー。生地が見た目より柔らかくストレッチも入っているのでアクティブに動けそうです。ちょっとした外遊びからキャンプまで、そして登山までしちゃおうかしらと思えるほど気分が上がるアイテムです!」

(信濃川より)
「長女、そして次女誕生。妊娠期間から授乳期間、家庭内のことにかかりっきりの期間が続いて、すっかり登山はご無沙汰になっている妻。この間まで赤ちゃんだと思っていた次女もいよいよ自分で靴を履いて元気に走り回れるくらいに成長したことだし、これからは家族全員揃ってハイキングに出かけられることが嬉しいです。基本的に落ち着いた色を好む人ですが、たまには元気なカラーに挑戦して欲しいと思ってます!」

【プレゼントキャンペーン】

信濃川日出雄さん直筆イラスト色紙+セカンドヒルジャケットを1名様にプレゼント。

11 『山と食欲と私』作者・信濃川日出雄氏の山ごはん原体験とは 〜山と“はじめての山ごはん”と私〜

『山と食欲と私』の主人公・鮎美ちゃんが、当記事内にも登場したコロンビア セカンドヒルジャケットを着用した、信濃川日出雄さん直筆色紙と、そのセカンドヒルジャケット(MEN’S or WOMEN’S)をセットで1名様にプレゼント!

応募方法は、コロンビアの公式Twitter(@columbia_japan)をフォローして、キャンペーンツイートをRT(リツイート)するだけ。当選者の方には、TwitterアカウントよりDM(ダイレクトメール)でご連絡いたします。

※セカンドヒルジャケットのカラーはお選びいただけない可能性があります。ご了承ください。
<キャンペーン〆切:2021年8月16日(月)>

プロフィール

信濃川日出雄
漫画家。代表作は『山と食欲と私』。
2001年よりプロ漫画家デビュー。2015年から新潮社「くらげバンチ」にて連載をスタートした『山と食欲と私』が累計160万部を超え、現在も好評連載中。PR企画やグッズデザインなどにも積極的に参画、コロンビアとも多くコラボレーションしている。

Text, Photos:信濃川日出雄

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