News

2022.11.16

【後編】「負けたくない」スノーボーダー姉妹の不思議な関係性 〜プロスノーボーダー・冨田せな、冨田るき〜

2022年冬に北京で開催された4年に一度のスポーツの祭典では、姉妹で夢の舞台に立った冨田せな。妹のるきは5位入賞、姉のせなは見事スノーボード女子ハーフパイプ初となる銅メダルを日本に持ち帰り、コロナ禍に沈む世の中に最高に明るいニュースを届けてくれた記憶は新しい。
雪上で2人の生い立ちやそれぞれのスタイルの違いについて伺った前編に続き、後編ではオフシーズンのトレーニングに取り入れているというスケートボードに乗りながら、時に刺激し合い、時に支え合う、お互いの存在について話してもらった。

前編はこちら>

妹の活躍が姉を再び表舞台へ

あれだけ悠々と滑る選手たちが、ジャンプすることに怖さを感じているとは少々意外かもしれない。しかし、せなは19-20年シーズンに、2022年北京で行われたスポーツの祭典と同じ会場でのワールドカップ中国大会で転倒し、頭を強打。3ヶ月間安静という大怪我を負った経験をしている。この時、大好きだったスノーボードを苦痛に感じ、引退すら考えた状況を救ったのは、画面の向こうで活躍する妹の姿だった。

2-2Tomita-Akakan-49193-750x500 【後編】「負けたくない」スノーボーダー姉妹の不思議な関係性 〜プロスノーボーダー・冨田せな、冨田るき〜

るき:怪我をして帰国した時期は、家でずーっと寝ていたりとか、話している途中にいきなり寝てしまったり。

せな:なんだか私、普通じゃなかったよね。

るき:心配だったんですけど、私は遠征に出なきゃならなかったので、パパとママに任せて。その時期は、1人でいても急にせなを思い浮かべることはあったけど、競技中は極力考えないようにしていました。あまり考え過ぎると、自分も同じようなことになりそうだなって思ったので。

2-3Tomita-Akakan--750x500 【後編】「負けたくない」スノーボーダー姉妹の不思議な関係性 〜プロスノーボーダー・冨田せな、冨田るき〜

せな:当時は、めちゃくちゃ病んでいたと思います。怪我のリハビリを始めて、自分が動けるようになってからは、少しずつ気持ちが持ち直せたんですけど、当時は活躍しているるきの姿を見るのは、励みになるどころか嫌でしたよ。海外の大会に出ているのを見ようと思えば、ライブ配信でいつでも見れたんですけど、動画も結果も1つも見ませんでした。見たら誰が活躍したかがわかっちゃうし、「みんな、滑ってるのに私はなんで?」って凹んじゃって。パパとママから「るき、何位だったよ」と言われても、「ああ、そうなんだ。へ〜」って興味がないふりをしたり。嫌な姉でしたね、あの時は。

2-4Tomita-Akakan-49203-750x500 【後編】「負けたくない」スノーボーダー姉妹の不思議な関係性 〜プロスノーボーダー・冨田せな、冨田るき〜

▲冨田せなさん

るき:家族への連絡をする時は、せなが入っていないLINEグループを使ったり。当時は、いろいろと気を遣いました。食事中もできるだけスノーボードのことには触れないとか。

せな:見られるようになったのは、るきが3位になった2020年の「バートンUSオープン」から。まさか、初出場のるきが決勝に残るとは思っていなかったし、それまで通り、絶対に見ないと決めていたから予選は見ていなかった。けど、るきが予選を1位通過したってことを聞いたんです。「え、何をしたの?」って気になっちゃって。シーズン最後の大会だったし、「まあ、決勝は見れたら見るわ」とか無関心を装ったんですけど、すごく気になって。結局、決勝は最初からしっかり見ちゃいました。

るき:3位になることができてすぐに、せなから「おめでとう!」って連絡が届いたんですよ。

せな:スノーボードのことでるきに連絡したのは、怪我をしてからその時が初めてだと思います。素直に嬉しいと思えて。その日をきっかけに、他の大会の映像も見られるようになりました。

るき:そこから徐々に復活した感じだよね。

2-5Tomita-Akakan-49316-750x500 【後編】「負けたくない」スノーボーダー姉妹の不思議な関係性 〜プロスノーボーダー・冨田せな、冨田るき〜

▲冨田るきさん

2人で立った夢の舞台

もちろん、妹にとっても姉の存在は大きい。4年前に韓国の平昌で開催された大会で活躍する姉の姿を間近で見たことが、滑り込みで北京大会の代表に選ばれるまで頑張り続けられたモチベーションだ。大きなプレッシャーがのしかかる大舞台で、幼少期から切磋琢磨してきた存在が隣にいることは、お互いの大きな支えになったようだ。

2-6Tomita-Akakan-49759-750x500 【後編】「負けたくない」スノーボーダー姉妹の不思議な関係性 〜プロスノーボーダー・冨田せな、冨田るき〜

せな:北京大会はコロナの影響でいろいろな制限がある中での開催でした。観客が入れなかったこともあって、あまり特別な緊張感はなかったです。普段より少しメディアが増えたって程度で。そんな中で決勝の1本目、私はまずまずの点数が残せたんですが、るきは変なところで転んでしまって……。

るき:私も普段のワールドカップより緊張しないくらい、プレッシャーは全然感じていなくて。むしろ「めっちゃ楽しい!」って感覚で滑れたんですけど、なんてことないところで転けちゃいました。

せな:大技を決めたのを見届けて、もう大丈夫と思って目を離したら転んでて。「え?」って。

るき:気がついたら、空しか見えなくてですね……。「あれ、何してんだろう?」って自分でもびっくりして、メンタルをやられてしまいました。決勝はせなとるきの順番が前後だったんで一緒にリフトに乗ってたんですが、「今日の練習もすごくよかったし、やることやればできるから。大丈夫だよ」ってずっと声をかけてくれて、良かった部分を褒めてくれた。おかげで何とか気持ちを立て直せました。

2-7Tomita-Akakan-49444-750x500 【後編】「負けたくない」スノーボーダー姉妹の不思議な関係性 〜プロスノーボーダー・冨田せな、冨田るき〜

せな:私は以前大怪我をしたのがこの会場だったので、練習から泣きながら滑っていました。でも、2人でずっとやってきて、この舞台にるきと一緒に立てたことが心強かったです。メダルという結果はもちろん嬉しいのですが、強いていうなら3本目。しっかり決めて点数を見てみたかった気持ちはあります。まだあのルーティンは決められたことがないので、どのくらいの点数が出るかは気になります。

るき:私も一緒に出ることが夢だったので、せなの結果は自分のことのように嬉しい。4年後は私も表彰台に登れるような滑りをしたい。私、負けず嫌いなので。

せな:私はまだ、4年後の大会を目指すかはまったく決まっていないです。具体的な形はまだ決めていないんですが、スノーボードを普及する活動は続けていきたい。キッズキャンプを開催したり、パイプを滑れる場所を増やしたり。競技に限らず楽しく滑る人を増やせる活動ができたら良いなと考えています。

せなは今後の活動や4年後を目指すことについては明言しなかったが、2022年優勝した『X-Games』に次シーズンも招待されることは確実。まずは、プロツアーでその勇姿が見られることは間違いない。
ちなみに、今回の北京大会に挑んだ日本チームは、なんと10組20人の兄弟姉妹選手が出場、全選手のおよそ1/6を占めていたそうだ。切磋琢磨できる存在が身近にいることは、なによりの強みになる。ハーフパイプは当然個人競技ではあるが、やはり冨田姉妹は2人で一緒に滑っているのだ。

1 2

Keywords

キーワード

2022.11.16