2022年冬に北京で開催された4年に一度のスポーツの祭典では、姉妹で夢の舞台に立った冨田せなと冨田るきの2人。妹のるきは5位入賞、姉のせなは見事スノーボード女子ハーフパイプ初となる銅メダルを日本に持ち帰り、コロナ禍に沈む世の中に最高に明るいニュースを届けてくれた記憶は新しい。
日本中のスキー場にスノーボーダーが急増するという、大会直後のスノーボード熱が少々落ち着き始め
た春先。2人の地元・妙高高原に残る冬の名残を滑ってもらいながら、競技のこと、そしてお互いの存在について話を伺った。
スノーボードが楽しくなったのは、大会を通して友達ができたから
スノーボードのために新潟県妙高市へと移住してきた父親の影響で、2人が競技を始めたのは物心がつく前のこと。気がついた時にはもう雪の上にいて、学校帰りには毎日のようにスキー場に直行しては滑る日々を送っていたそうだ。
せな:放課後は毎日スノーボードでしたね。でも、友達と遊びに行きたいし、夜は見たいテレビ番組もあるし。最初の頃は、嫌々やっていた記憶があるような、ないような……。
るき:学校でテレビや芸能人の話題についていけないから、友達と話ができないみたいなことがあったよね。
せな:でも、大会に出始めるようになったら、ボードの友達がどんどんでき始めた。妙高のスキー場は今日滑った赤倉観光リゾートスキー場や関温泉、池の平、杉の原とどこに滑りに行っても、顔見知りができて。友達と一緒に滑れるようになってからは、どんどん楽しくなっていきました。
るき:私も最初のスノーボードの記憶は大会なので、よほど楽しかったんだと思います。大会に勝つと賞品がもらえたり、海外に行けたりっていうご褒美が楽しみで、小さい頃からせなと一緒に毎年出場していました。
せな:うちのパパはスノーボードが大好きで、今でも仕事終わりにそのまま滑りに行ったり、休みのたびに友達と滑りのイベントに出かけたりする人。私たちは毎週のように、いろいろな場所にくっついて行ってました。
るき:仕事終わりにそのまま、私たちの大会会場に向けて出発したりしたよね。最初はママが運転して、途中でパパに交代して、みたいなことがよくありました。
せな:自分で車を運転するようになってからは、その大変さがよくわかるようになった。すごくありがたいことです。
姉妹の性格とスタンスは真逆
画面越しの2人は一見似て見えるけれど、実際に会ってみるとまったく違うタイプだということがよくわかる。よく笑う姉のせなさんが会話の主導権を握る一方、妹のるきさんは隣で静かに話を聞きながら、よく噛み砕いてから話を補足する姿が印象的。それぞれの性格を、姉は大雑把だけどしっかりもの、妹は几帳面で負けず嫌いと評する。そんな仲良し姉妹の関係性は、子どもの頃から変わらない。
るき:最近もまだお下がりをよくもらいます。「せな、これ着てるとすごくかわいい!」とか褒めてから借りて、そのままもらっちゃったり。
せな:なので、自然と服装や持ち物は似てきますよね。似るのは、私は嫌ですよ。「また、私の真似してるの?」みたいに思うこともあります。好みが違う部分もあるんですけど、似てるところはめっちゃ似てるので。
るき:でも、子どもの頃から性格は真逆でした。最近の趣味だって、私はお菓子作り、せなはスケボーや写真が好き。音楽の趣味も全然違います。喧嘩の回数が減って、仲良くなったのはつい最近になってからです。
せな:一緒に住んでいた頃は、リモコンの取り合いとか些細なことでしょっちゅう喧嘩したよね。私が高校の寮生活で離れて暮らすようになってから、自然と喧嘩はしなくなりました。よく揉めていたけど、スノーボードのことでは昔から喧嘩したことないと思う。
るき:まあ、どっちかが大会で勝って「イエーイ!」って盛り上がっている時に、もう片方が落ち込んでいるってことはあるけど。あ、それ、だいたい私か……。
せな:昔から関係性はこんな感じで、変わらないんじゃないかな。歳も近いし、比較されることは多かった。いつも一緒にいるから、「せなるきちゃん」ってセットで覚えてもらうことも多くて。それも嬉しいけど、せなはせな、るきはるきで覚えてほしいなって思うことは昔からありました。るきはライバルだし、負けたくない。
るき:やっぱり2人セットじゃなくて、それぞれを見てもらいたいなとは思っています。そもそもスタンスが違うし、スタイルも違うので、別々の1人のスノーボーダーとして覚えてもらえたら嬉しいです。
それぞれが目指す自分なりのスタイル
普段は仲の良い姉妹でありながら、競技ではライバルでもある2人。男子顔負けの力強くスタイリッシュな滑りが魅力の姉に対し、SBM(SnowBoard Masters)でタイトルを獲るほど総合力の高い攻めた滑りを武器に戦う妹。お互いのスタイルについては、それぞれどう思っているのだろう。
せな:私は男らしい、かっこいい滑りをしたいってことがずっと目標。女性でも男性っぽいスタイルで滑っている人を見ると、「うわっ、かっこいい!」って惹かれます。
るき:私は1つのことよりも、全体の完成度を高めた滑りをしたい。最近は「かっこいい」とか、「楽しそうに滑っているな」って、誰かに憧れられる存在になりたいという気持ちが強くなってきました。
せな:るきの滑りは日によって波がすごくあるんだけど、調子が良くて安定している日は何をしてもビシッと決めてくる安心感があります。
るき:せなの滑りって本当にかっこよくて、憧れる部分はあるんですけど、それを私ができるかって言うとまた別の話。できないことをやるより、それだったら違う方向で自分らしいスタイルを出せたらと思っています。家族だからという贔屓目を抜きにして、女子選手の中で、せなはちょっと目立って見える存在。自分で男らしいかっこいい滑りをしたいって言っているけど、それをちゃんと表現できてる。
せな:あ、ありがとうございます! 私、今シーズンはフロントサイドの1080を導入したんですけど、それはグラブをテールでやりたいという目標設定があったのと、男子の滑りがきっかけで。テールをやっている人が多い中でも、私は回転する時に頭も入れてみたり、男子の動きに近づけるようになるといいなとイメージして滑っています。
るき:私は得意なのがバック540だったので、自分に余裕が出てきた時にもう少し回転数を増やしてみようと思って、今年からフロントとバックサイドの900を取り入れました。
せな:新しい技に取り組むのは、怪我の恐怖と隣り合わせ。飛ぶのは、いまだに怖いです。
るき:私も怖いけど、こればっかりは繰返し練習して、自信をつけていくしかない。何回も何回も。
<後編に続く>