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2021.03.31

ウェアの機能でよく目にする“撥水(はっすい)”と“防水”の違いは?

価格帯が幅広く、機能面でもさまざまな違いがあるレインウェア。あまり詳しくない方にとってはどういった面を重視して購入したらいいのか悩ましいところ。そして基礎知識として“防水”と“撥水”の違いを実は正しく理解できていない方も多いのではないでしょうか。そこで今回はコロンビアで長年、商品開発に携わってきた商品部の岩瀬さんに、“防水”と“撥水”の違いを初心者向けにじっくり解説していただきました。

雨の時期やフェス・キャンプ、登山などアウトドアで活躍するレインウェア。ただしレインウェアだと思って着ていたら水が浸みて……実はウィンドブレーカーだった! なんていう経験がある人もいるのでは!? 服や足元が濡れると身体が冷え、楽しいフェスやキャンプもそれどころではなくなりますよね。そして登山などのアクティビティでは低体温症を引き起こすなど、命の危険にも関わってくるためレインウェア選びは重要!

とはいえいざレインウェアを買おうと思っても価格帯が幅広く、機能面でも違いがあるため、基礎知識を身に付けてから選ぶのがおすすめです。そこでまずはよく目にする“防水”と“撥水”の違いからしっかりと理解しましょう。今回はコロンビアで長年、商品開発に携わってきた商品部の岩瀬さんにお話を伺いました。

※この記事は、CSJ magazineで2019.5.27に掲載された「ウェアの機能でよく目にする「撥水(はっすい)」 「防水」「耐水圧」っていったい何?」の内容を再編集し、増補改訂したものです。(着用ウェア、掲載商品は取材当時のものとなりますので、一部取扱がない場合がございます。)

img_24A9247-thumb-705xauto-103401 ウェアの機能でよく目にする“撥水(はっすい)”と“防水”の違いは?

▲長年、商品開発に携わってきた商品部の岩瀬さん。

水をはじく“撥水”と、水が浸透しない防水

──ウェアの機能にある“撥水”と“防水”はどう違うのでしょうか?

撥水は生地表面に付く水を“はじく”こと。撥水が効いている状態というのは、生地の表面に水を垂らした時に玉になって転がり落ちるんです。

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一方で防水は耐水とも言い換えられて表面の水を弾く・弾かないは関係なく、生地の内側に水が浸みるかどうかが基準となり、防水と表記されているのは内側に水が浸透しないということ。商品の生地を防水と位置付けるためには、商品を作る上で生地の耐水圧というものを測るところから始まります。

──耐水圧というと、テントなどの商品には耐水圧のスペックが記載されていますがピンときません。どうイメージしたらいいでしょうか?

耐水圧の単位はmmと表記するので厚さのようですが、生地の厚さと耐水性は比例しません。耐水圧の表記を見る際は厚さのイメージから離れてもらって、例えば1,000mmの場合は「1,000mmの水の柱があり、その柱を生地の上に置いても漏れてこない」というイメージをしてもらうとわかりやすいかもしれません。

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試験で行う際は生地に水圧をかけ、水滴が3滴漏れてきた段階がその生地の耐水圧ということになります。

──耐水圧の単位「mm」のイメージは付きましたが、それを実際の状況に落とし込むといまいちわからないのですが……。

一般衣料品だと2m(2,000mm)という耐水圧でも問題ないと考えてください。ただし、アウトドアは山で使うことを始めさまざまな状況が考えられます。例えば岩に座って生地が擦れるなど、アクティビティではさまざまな圧が掛かりますよね。アウトドアのウェアでは、通常の生活では必要のない10,000mmや20,000mmといった大きな数値の耐水圧が求められます。

加えて防水の生地の下側には、上の図のようにコーティングしたり、フィルムやメンブレン(膜)を貼り付けたりすることで完全に生地をふさぎます。つまり、基本的には水を通さない代わりに風も通さないということで、汗やそれに伴う蒸気も通しづらい。よって透湿性をどれくらい持たせるのかが、快適さを左右する性能ということです。

簡単に撥水性が落ちない耐久撥水という基準

──水を弾くことが撥水というのであれば、化繊のアウターは水を弾くものが多い気がします。化繊の洋服はほとんどが撥水加工しているものなのでしょうか?

加工のレベルによりますが、ナイロンやポリエステルでもまったく無加工のものはやっぱり浸みてしまいますよ。一般的に撥水と呼ばれるものは、5回くらい洗濯して80%残っていたら優秀。ざっくり言うと、「一般衣料品の撥水であれば1シーズンくらいはもつでしょう」というイメージです。

ただし、アウトドアやスポーツブランドにおける撥水は、正確には“耐久撥水”という言い方をします。これは一般衣料品の撥水機能を大きく上回り、最低でも10回から20回、場合によっては50回洗濯しても8割程度の撥水性、耐久性、持続性があるんですね。買ったばかりの初期性能は耐久撥水だとしても、洗濯と使用回数を重ねていくうちに、持続性・耐久性があるものと、どんどん劣化して悪くなるものとの差が出てきます。

──では水を弾かなくなったらどうしたらいいでしょうか?

zu2-thumb-705xauto-103470 ウェアの機能でよく目にする“撥水(はっすい)”と“防水”の違いは?

アウトドアブランドの耐久撥水は薬品に生地を浸け、布の内側まで薬剤を含浸させています。ただしその薬剤は表面へのストレスや経年劣化で落ちていき、通常5・6年程度使えば表面の撥水が落ちてしまうんですね。復元するとしたら撥水スプレーを使うことなどで対処できますが、生地自体が撥水しているわけではないので、洗濯をすればスプレーで塗布した撥水剤は落ちてしまいます。また、汚れた状態の上に撥水スプレーをした場合、撥水剤が汚れに吸い取られるだけなので効果はそれほどありません。

とはいえアウトドアブランドの耐久撥水は簡単に落ちないので、使用頻度が低いのに水を弾かなくなったとしたら、表面に水を吸い込んでしまうほこりや汚れが付着している場合がほとんど。その場合は洗濯してしっかりと乾燥させればある程度は元に戻ります。あともし「買って間もないうちに撥水が落ちてしまった」という方がいたら、それは汚れの問題ではなく、耐久性がない撥水加工の商品だったということでしょう。

──洗濯する際の注意点はありますか?

繰り返し洗っていると徐々に撥水効果は落ちてしまいますが、かといって汚れたままだと効果を発揮できないので、基本的に撥水加工がしてあるウェアはこまめに手入れをすることが大事です。あと注意したいのは柔軟剤入りの洗剤。柔軟剤は水を吸収しやすいため、どうしても使用する際は通常よりも1回は多くすずきをして完全に洗剤を除去しましょう。

もし撥水性が落ちてきた場合、これは自己責任で行っていただきたいのですが、アイロンを低温にしてさらに当て布をして生地に熱を加える。もしくは生地から少し離したところからドライヤーで温風を当てるなどすると、撥水機能が少し復元します。

なぜ熱を加えるかというと、撥水の分子はイメージで言うと毛が立っているような状態なんですね。顕微鏡で見ると、生地にある撥水剤の表面はハスの葉みたいにこまかな毛がいっぱい立っている。それに圧が掛かったり、擦れなどのストレスによってその毛が寝たり崩れたりすると、撥水自体が効かなくなって水が染み込みやすくなるので、熱を加えることで寝ていた毛を立たせるという仕組みです。

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ただ厳密に言うと撥水しにくい水もあります。撥水機能を備えたウェアを着用する人は感覚で気付いていると思うのですが、雨=水だから撥水するというとそうでもない。例えば霧みたいな細かい水は撥水の生地が効きにくいんです。新しいレインウェアを着ているのに、生地に水が染み込んでべちゃっとしている場合は、湿度が高かったり、霧雨の環境下だったりして撥水効果が落ちていることが考えられるでしょう。

透湿・防水には多孔質と無孔質の2種類がある

──防水で透湿性がある=水は通さないけど、蒸気は逃すということですか?

そうですね。ただし、透湿・防水には多孔質と無孔質の2種類があります。多孔質というのは非常に薄い生地の中に細かい穴がたくさん空いている状態で、“軽石”をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。空いている穴よりも小さい水蒸気の分子は通り、空いている穴よりも大きい水の分子は通ることができません。それに対して無孔質は穴がなく、水があれば単に吸う。吸うことによって水分を乾かしているんです。

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▲多孔質の蒸気の抜け方 概念図

地球上の物質というのは、濃度を均一にしようとする働きがあります。例えば、汗をかいた衣服の中は湿度が高くなっていますよね。それは湿度には高いところから低いところへ移動するという性質があるからです。

ウェアの中にこもった湿度は中から外へいくわけです。多孔質はウェアの中の湿度が高く、生地に蒸気が通る穴が空いていれば湿度が低い場所へ逃げていく。一方で無孔質の場合は水を吸って、生地の外側で湿度が低い方に水分を動かすことで生地が乾くという原理を利用しています。

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▲多孔質の蒸気の抜け方 概念図

──多孔質や無孔質は、耐水圧のように実際に調べる試験があるのでしょうか?

多孔質の特徴である蒸気を通す試験方法がA-1法で、無孔質の特徴の水を直接透過する方法をB-1法と呼びます。コロンビアの場合は、水の吸い方を図るB-1法で高いスペックのものを採用しています。コロンビアが採用している3層の中には、多孔質ではあるものの、無孔質と同等の水を吸う力がある素材もあるんですね。その素材は、真夏の暑さによってウェア内が汗で濡れていても水分を吸い上げてくれるため快適なんですよ。

──同じ透湿性でも性質が違うんですね。多孔質と無孔質、どちらが商品によく使われていますか?

同じくらいでしょうか。それぞれ先に述べたような性質があるので、どちらが適した防水・透湿なのかは環境にもよります。例えば汗をかいたときに最初は蒸気ですが、溜まっていくことで湿度がマックスになると水滴状になりますよね。水滴になると多孔質は通せませんし、水分を吸う量は無孔質には負けてしまいます。運動し始めなど、ウェアの中で蒸気が立ち込める場合は多孔質のほうが快適ですね。でも汗がそのまま水になりやすい夏などの環境は、最初から水を吸いあげる無孔質のほうが快適に感じるケースもあります。

防水透湿というと、肌が生地に直接触れ合うレインウェアなどは2.5層の無孔質のものがよく使われます。逆にいうと、2.5層以外は多孔質が多いですね。いずれにせよコロンビアの場合は、3層のレインウェアでも水を吸い上げる力があるため、デザインや予算などの問題がなければ3層をおすすめします。

──ちなみにその2層や3層などの生地の貼り合わせについて、2.5層の“.5”は何を指すのでしょうか?

まず2層は生地に直接ラミネートした状態で、生地を1枚だけ使うのではなくて裏地を使うことがほとんど。そして2.5層は無孔質かつ特殊なグラビアプリントを載せていることが多く、コーティングに触っても肌に直接触ってもベタベタしにくい。また、プリントした模様が若干の凹凸を付けてくれて、肌に付いてもさらっとしていて快適さが増します。“.5”は生地を使わないプリントのことで、ちなみに昔は2.5層ってなかったんですよ。

そして3層は、表地・メンブレン・トリコットを張り合わせたもの。独特の素材感で、基本的に2層や2.5層よりもパリパリした素材がいかにも防水素材と感じられます。2層や2.5層に比べるとやや着心地が固めで、カジュアル用途にはあまり使われないですね。ただし今は風合いが良くなったので、3層とそれ以外の差がわかりにくくなりました。

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▲2層の生地。

img_24A9337-thumb-705xauto-103409 ウェアの機能でよく目にする“撥水(はっすい)”と“防水”の違いは?

▲2.5層の肌に当たる方の生地。丸い模様はグラビアプリントと呼ばれ、肌に張り付くのを抑えるため0.5層扱いとなる。

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▲3層の生地。ストッキングのようなきめ細かい生地が肌に当たる側に貼ってある。

──アウトドアやスポーツブランドのレインウェアは、街で着る普段使いには高スペックすぎますか?

ファッションとして、普段からアウトドアのテイストを楽しみたいという方にはいいですよね。夏以外の汗をかきにくい状況であれば、2層の多孔質の方が普段使いで快適ですよ。あと基本的に2.5層は一番軽く作れる素材なので、軽さに対して価値観を求める人には2.5層をおすすめしますが、それ以外の部分では3層のレインウェアを購入された方がすべてにおいて快適と言えるでしょう。わからないことはストアのスタッフに使う用途などを話して相談すると、ベストな提案をしてくれるはず。不安な方はストアまで足を運んでいただけると安心してセレクトできると思いますよ。

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