国内外問わず、そこに行かなければ描けない壁画を中心に活躍するアーティストの河野ルルさんとコロンビアのコラボレーションは、今回で早くも3回目。新シーズンのテーマは「Keep Weird ~変わり者のままでいよう~」です。コロンビアゆかりの地のポートランド市民のスローガンを受け継いだコラボテーマと、社会貢献に活動の幅を広げていくアーティストとの相性を紹介します。
何かに導かれているように見えてしまう人
コロンビアと縁が深いポートランドのシンボルをモチーフにする河野ルルさんとのコラボレーション。第1弾はバラや鳥。第2弾はファーマーズマーケットでした。コラボが実施されるたび行われてきたインタビューも、これが3回目となります。
最新記事を展開する前に、河野ルルさんのプロフィールを手短にお伝えします。
「2015年の貧乏旅行の果てに資金が底を尽き、宿代代わりにメキシコのホテルで壁画を描く。美術教育の経験もないままに」
これが壁画中心のアーティストになったきっかけ。さらに……。
「その旅から戻った1年後に出展したアートフェアでグランプリを受賞」
それを機会に本格的な画家活動が始まります。そんなマンガのような、あるいは神の啓示を受けたとしか思えない逸話に関心を持たれた方は、ぜひ過去のインタビュー記事をご参照ください。
いずれにせよ奇跡的という他にない経歴を持つルルさんですが、当人は飄々としながらも人間味に満ちた一人の女性です。ただ、近況となる新たなエピソードを聞かせてもらう度、何かに導かれているように見えてしまうのも事実です。
前回のインタビューは、2022年の初めにスタートしたクラウドファンディングのプロジェクト『アジアの子どもたちに壁画をプレゼントし笑顔を届けよう!』で、昨年末に20日間滞在したインドの話をしてくれました。ブッダが悟りを開いたとされる寺院に最初に訪れたその旅で、彼女は大きな気づきを得たと語ります。
「そこに行かなければ成立しない壁画を描く私の役割は、さまざまな問題に直面している現地の子どもたちの生活ぶりを伝えることではないか」
ルルさんご自身は、啓示や奇跡というような表現を用いません。ひたすら純粋に、自ら感じたものを素直な言葉に置き換えてくれます。そして彼女にはまず「人が喜んでくれる絵」がある。それが周囲を巻き込み社会貢献活動とリンクしていくことも、ごく自然な流れと受け止めている。そんな人です。
件の壁画プロジェクトは継続中です。3回目のインタビューを行ったのは7月中旬ですが、早ければ7月末にはタイの二つの町で壁画を描く旅に発つそうです。
異様な負けず嫌いが顔を出すアーティスト
「そんなもの、よく見つけましたね!」
前回よりも瞳をくるくる動かしながら驚きの表情を見せたのは、こちらが調べた近況と思しき情報を伝えたときでした。
ルルさんの地元で社会貢献活動に挑戦している若者を発信するために設けられた『名古屋人間力大賞2023』。エントリー動画に加え、3月末の最終選考会会場で本人が行うプレゼンによって受賞者を決めるというアワードで、ルルさんは準グランプリを獲得しました。
「ある方から参加を促されて出たのですが、その“準”が……」
とは言え、最高のグランプリに次ぐ賞です。なおかつ自宅に見える場所で自分の活動を語った(背後で時折ネコの声が聞こえてくる)ルルさんらしいエントリー動画で受賞したのはすごいことではないかと。あえて言えば選考者の見る目も確かなのではないかと。そこに感じ入ったのでこの話題を持ち出したのですが、予想外の反応が返ってきました。
「勝負事というか、順位がつくものには異様な負けず嫌いが顔を出しちゃうんです。学生時代に打ち込んでいたテニスもそうでした」
しかし、アートと順位は相容れないように思うのですが……。
「絵描きの世界も椅子取りゲームみたいに見てしまうんです。私は美大に通ったわけではないし、アーティストになったのも遅かったので、そこにコンペがあるなら負けたくないという気持ちが強いんです」
意外な一面でした。前回のインタビューでは知り得なかった側面は他にもありました。
ルルさんによる2022年の壁画プロジェクトを進める際、JICA(国際協力機構)を通じて知り合ったFC Nono主宰者の萩原 望さんが、同じくクラウドファンディングのプロジェクト『サッカーを通じてインド貧困地域の子ども達に笑顔と未来を!』を設立。ルルさんはリターン協力としてインドで新たに壁画を描く予定でした。
しかし「インド最貧州の子供たちが未来を切り開く環境づくり」を目指したプロジェクトは延期。別の形で再スタートを切ることになったのも、この数ヶ月のルルさんの近況です。
無理して明るい絵を描くような気持にはならない
協力参加を決めたプロジェクトを受けて聞きたかったのは、社会貢献活動に関するルルさんの考え方でした。自身の壁画プロジェクトは世間の注目を集め、その方面からの依頼も増えているそうですが、それは創作活動にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
「実感として、ただ作品を残すだけでは物足りないというか、意味がないように思えるというか……。私の絵が何かの役に立つことが、私自身のモチベーションになっているのは確かで、絵を描くことでさまざまな問題解決を引っ張る力になったらいいなと思います」
影響に関してもう一問。ルルさんの場合、世界中を旅する中で困窮生活を強いられている子どもたちに触れる機会が多いわけですが、それによって自分の絵がダークな色合いを帯びることはないのでしょうか。
「最近、発見したんです。私は何があっても絵に影響を受けないことを。これも近況になりますが、カナダ人の彼と暮らしてみたら、文化の違いからあれこれ衝突するようになって。でも、もういいやってバタンとドアを閉めて、さぁ描くぞってなると、すっと絵の世界に入っていけるんです」
想定外のエピソードを打ち出すのも、感覚的なルルさんらしい返しです。
「インドやアフリカでは、実際に貧困や病気などで苦しんでいる子どもたちとたくさん出会いました。けれど彼らは、目いっぱいの笑顔で接してくれるんです。その逞しさを見るとそっちにポイントが動くので、決してダークにならないというか、無理して明るい絵を描くような気持ちにはなりません。」
そこで、こんな問いかけをしてみました。ルルさんは希望を描く人?
「そうだったらいいけれど。どこの国でも私の絵は明るいと言ってもらえるので、それはとてもラッキーですね。どちらにしても、私は誰と付き合っても絵が一番とわかったのは、この半年で一番の発見でした」