国内に留まらず世界中の公共施設や病院・学校などの壁画ペイントを中心に作品を手掛ける、アーティスト・河野ルルさん。昨年に続き、コロンビアとのコラボレーション第2弾が2023年春より登場!今回はこれを記念して、2回目となるルルさんへのインタビューをお届けします。
国内外で壁画を中心に活躍するアーティストの河野ルルさんとのコラボレーションで、コロンビア“プライスストリーム”シリーズのオリジナルアイテムが発売されたのは2022年の夏。その第2弾が今年春よりスタートします。今回もまた、触れる者の心を穏やかな明るさで満たしていく独特のタッチが全面に広がっています。この新作発売を記念して、再びルルさんにインタビュー。新たな旅の中で、改めて絵を描く意味や役割を実感した思いをたずねました。
第1回のインタビューはこちら
今度のコラボはファーマーズマーケットがモチーフ
第1弾のコラボレーションで描かれたのは、コロンビアゆかりの地のポートランドを象徴するバラや鳥。自分の絵がショルダーやポーチなどの小物に落とし込まれたのが格別だったようで、前回のインタビューでは、「展示会で実物を見た帰り、地元の名古屋駅のコロンビアでジャケットを買っちゃいました!」と、その高揚振りを伝えていました。
今回2回目となるコラボレーションアイテムのモチーフは、ポートランドの各地区で行われているファーマーズマーケット。地元の名産販売に留まらず、音楽演奏などと相まって、1日1万人から1万5千人の老若男女を集める、この町になくてはならない催しになっています。人々に親しまれているイベントに触発されたルルさんは、またしても温かみに満ちたタッチと色彩で野菜や果物を描いてくれました。前回の2022年でのコラボレーションの反響も大きく、今年は第1弾コラボにはなかったスニーカー、Tシャツ、キャップやイヤフォンケースなど、新たなラインナップにルルさんの独特な世界が展開されます。
「私の絵を全国の方に見てもらえる機会をいただけるだけでもありがたいのに、そのチャンスを二度もいただけるなんて、こんな光栄なことはありません。新作コラボで特に気に入っているのは、大きなショッピングトートです。私の場合、画材とかを運んだりするのにもいいです。Tシャツもかわいいんですよね」
描いた本人も完成品を前にして歓喜の表情を浮かべるほどですから、今回も再び好評を博すのは間違いなさそうです。ところで、コラボ第1弾が全国に知れ渡った後、こんな出来事があったそうです。
「これも地元でのことですが、街中で突然名前を呼ばれて、『ルルさんですよね。コロンビアのコラボアイテム買いました』と言ってもらえて。とてもうれしかったのですが、私そんなに顔バレしていないはずなのにと不思議な気持ちになっちゃって……」。この話をしたときには、偶然を再現するような驚きの表情を浮かべていました。
しかし河野ルルという人物は、あらゆる偶然を必然に変えていく才能の持ち主かもしれません。昨夏の記事で記された、彼女がアーティストになったきっかけを知れば、まさにそう思う他にないでしょう。
「貧乏旅行の果てに資金が底を尽き、宿代代わりにメキシコのホテルで壁画を描いた」
これがきっかけの要約。驚くべきは、それまで絵画の実践も知識もほぼなかったこと。さらに、その旅から戻った1年後、本格的な作家活動を始めるために出展したアートフェアでグランプリを受賞するのです。疑うわけではありませんが、そんな奇跡的な経緯が本当にあり得るのかと、信じ難い思いが拭いきれないのも事実でした。
「子どもの頃から図工が好きでしたけれど、真剣にやったのは父がコーチだったテニスだけでした。ただ、家族が旅行好きだったおかげで私も旅が好きになり、社会人になってからはお給料が一定額貯まるとどこかへ行くようになりました。最初の長期海外は、大草原の星空を眺めたくてモンゴルへ。それが23歳で、次は27歳のとき。アジアからヨーロッパ、アフリカに渡り、南米のメキシコで3カ月の滞在中に壁画を描いた2015年の旅でした。宿代を稼ぐのに掃除をするよりは、壁に絵を描かせてもらったほうがいいんじゃないかと閃いて。それがすごく楽しくて、メキシコの人にも気に入ってもらえて。なんでそんなことになっちゃったんでしょうね」
瞳をくるくる回しながら記憶を取り戻そうとするのが、ルルさんの癖みたいです。けれど自分でも理由がよくわからない様子を目の当たりにして、すべてを明確にしてもらう必要はないと思えてきました。とにかく彼女は、何かに導かれるようにして絵を描くことになった。それで十分じゃないかと。
新たな旅は、人を励ましてあげてもいい場所へ
奇跡的な旅以降、さまざまな活動に挑んできたルルさんは、2022年初頭にクラウドファンディングを実行します。それまで世界各国の学校・病院・孤児院・障害児施設で行ってきた壁画制作をアジアで展開する、その名も『アジアの子どもたちに壁画をプレゼントし笑顔を届けよう!』。このプロジェクトは、目標金額の145%に達する支援金を集めて終了。アジア各国で5つ以上の壁画を描く皮切りとして、12月初旬にインドへ旅立ちました。
「ご縁ができたJICA(国際協力機構)を通じて、インドのブッタガヤを紹介してもらいました。首都のニューデリーから国内線を乗り継いで3時間ほどの町で、子どもたちにサッカーを教えている男性の方がいると聞きました。その方がいるのは5歳から11歳までの約400人の小学校で、自由に描いていい壁もあるらしいと。インドは前にも訪れていて、それなりに勝手を知っていたので決めました」
この約20日間のインド滞在は、今後のルルさんに大きな指針を与えることになります。それは後述するとして、この段では、子どもたちのいる場所まで出かけて絵を描く理由を教えてもらいます。これは明確な答えが返ってきました。
「貧乏旅行の最中、ネパールで現地の家族に食事を振舞ってもらった翌日に体調を壊したことがありました。それまでの私の旅の目的は、人との出会いと現地の食べ物だったので、そういうこともあるだろうと覚悟はしていたんです。でも、担ぎ込まれた診療所は粗末なトタン屋根で、ブランケットは1枚もなく、そんな施設で点滴を打つのは本当に怖くて。けれどこの村の子どもたちには、この環境しかないんだなあって。他の町を巡る中でも、たとえば後に私が好きになる絵を描くチャンスすらない場所がある現実を知りました。だから、それぞれが通う学校に壁画があったら毎日が楽しくなるかな。何かをはじめるきっかけになったらいいなと思いました。やっぱり、恵まれない子どもたちと出会った旅の経験が大きいですね」
自分の絵が何かをもたらす可能性は、別の機会でも気づいたそうです。
「親しい友人が重い病気に罹り、何とか元気になれないかと勝手に好きな絵を描いて病院に行ったら、とても喜んでくれて。そのときも、人を励ましてあげてもいい場所はこういうところなんだと思いました。それを機に、できれば毎日食べるのも必死なアートに余裕のない海外の町で、サンタ的に活動したいと考えるようになりました」