Activity

2021.05.21

世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

岩場でのボルダリングをメインに世界で活躍する、ロッククライマー・一宮大介さん。一宮さんのクライマーとしての原体験なども含め、昨年末に行ったスイス遠征の模様を東大卒クライマー・植田幹也さんがインタビュー!初心者の方にも為になる、クライミングの始め方も教えてもらいます。

岩でのボルダリングを中心に世界トップクラスの成果を上げている、マウンテンハードウェアのサポートクライマーである一宮大介さん。日本人離れしたフィジカルの強さ、独特で人を惹き付ける風貌、そして型にはまらない生き方は国内外から注目を集めています。今回は、一宮さんが昨年末に遠征したスイスで登ったボルダリングの課題やそこでのライフスタイルを中心に、クライミング解説者であり自身もクライマーの植田幹也さんがインタビュー。一宮さんの山やアウトドアでの原体験、クライミングを始めたきっかけ、さらには初心者の方向けのクライミングの始め方やオススメのボルダリングスポットなどもご紹介します。

1 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

身体一つでできるクライミングって“自由だ!”

一宮さんがクライミングを始めたきっかけは、高校一年生のときに先輩に誘われ入部した山岳部。彼が入学した大分県立竹田高校はボルダリングジャパンカップ(BJC)や国体が開催できる規模のボルダリング競技用の壁があり、クライミングのための環境が整っていました。幼少期から木登りや山の中を探検することが好きだった彼にとってクライミングはその延長上にあり、自然とのめり込んでいきました。

「クライミングを始めたときに、“これだ!”とピンときました。身体一つでできるクライミングってすごい自由だなと感じ、ずっと続けていこうと思いました」

せっかくやるなら高い目標をと思った一宮さんは、国体への出場や同年代の大会であるジュニアオリンピックでの優勝などを目指します。スポーツクライミングに熱中していた当時は、「強くなりたい一心で大会前日も含めて毎日登っていた」そうです。

岩は無限にある。人生が何回あっても足りない

大学へ進学し関西に活動の場を移した一宮さんは、クライミング歴はまだ4年程度でしたが、当時では国内最難クラスの五段のグレードが付いた愛知県豊田の岩場にあるボルダリング課題『アガルタ』を完登し、一気に注目を集めます。その後、2015年のBJCで日本代表権を獲得、また同年の国体で優勝するなど結果を出していきます。しかし、大会に臨む気持ちの裏には常に岩のクライミングを突き詰めたいという強い想いがありました。

2 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

3 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲2015年、第70回国民体育大会 山岳競技(ボルダリング)で優勝を成し遂げた際の一宮さん。

「BJCで優勝したいとかワールドカップで活躍したい気持ちはありましたが、それらを達成したら岩にすぐにシフトしようと考えていました。岩は世界に無限にあって、ボルダリングだけでも全て登り切るのは到底不可能です。それに加えてリードやマルチピッチ(複数のルートが連続するクライミング)まで手を広げたら、それこそ人生が何回あっても足りないですよ」

そう語る一宮さんは「自分が思い描いていた計画からは2年ほど遅れた」と振り返るものの、岩のクライミングに集中するために2017年にプロのクライマーとして生きることを決意し、今に至ります。

世界トップクライマーと過ごしたスイス遠征

昨年、本来なら一宮さんはアメリカ遠征へ行く予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で断念。そんな折、以前南アフリカの岩場で知り合ったスイスのクライマーであるジュリアーノ・カメロニから誘いを受け、2020年10月末から比較的入国しやすいスイスへ遠征することを決めます。

4 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

現地ではフランスのクライマーであるシャルル・アルベールも合流。ジュリア―ノはボルダリングで世界最難クラスのV16(数字が大きくなるほど難しく、V16を登ったのは一宮さんも含め世界で現在20名弱。最難はV17)を複数本登る新進気鋭のクライマーで、そしてシャルルは裸足でV16を登ってしまう唯一無二のクライマーです。

5 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲スイス遠征中、岩場で休むジュリアーノ(写真左)と、雪が一面に積もって嬉しそうなシャルル(写真右)。

未踏の岩を掃除開拓しチャレンジする日々

最初の2ヶ月は3人で多くの岩場を巡りましたが、特に一宮さんが楽しかったと語ったのは“ヴァボナ渓谷”で過ごした日々。両脇を数百メートルの山に囲まれ深い谷底になっているこの渓谷内に家を借りて、誰も触ったことのない岩を探してチャレンジするという岩場開拓に明け暮れたそうです。

「既存の難しい課題を登るのも楽しいけれど、このヴァボナ渓谷には無数に岩が転がっているので自分で一から見つけた岩を登る方が魅力的でした。3人で岩を掃除して地面を整備し一緒にトライして、とにかく楽しかったです。V14やV15はありそうなラインもいくつか見つけました。ただ時間も足りなくて記録に残る難しい初登課題は登れなかったですけどね」

6 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲ヴァボナ渓谷内にある集落と思われる場所。

7 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲ロープにぶら下がり、岩場を掃除する一宮さん。

8 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲自分達で見つけた岩の難課題に挑む一宮さん。

帰国直前、何か成果を残そうと思い立った一宮さんは、ジュリアーノが初登しV14という高難度が付けられた『Lur』に挑戦します。3日間かかったものの、見事最終日の最終トライで完登。この課題では、世界で4人目の完登者になりました。

9 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲世界で数人しか完登していない『Lur』の厳しい一手を止め、アイコンのドレッドヘアーも迫力満点。

クライミング以外でも今回のツアーで新たな収穫があったようで、遠征中に時間が余ったときに毎日取り組んでいたという“ヨガ”。一見関係ないようですが、クライミングにも良い影響があるそうです。

「ヨガは可動域が広がるのでクライミングに活かせますし、メンタルも一回リセットできるので好きなんです。クライミング後の身体が疲れているときにもできるので、ビギナーの人にもオススメです」

昼夜クライミング漬けの毎日と思いきや、しっかりとクライミング以外にも充実した時間を過ごせたようです。

10-1 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

今回の遠征の頼れるお供、マウンテンハードウェア

このスイスでも一宮さんはマウンテンハードウェアを着用。基本的に、登るときは上はTシャツかロングTシャツで、寒ければパーカーを着ます。「そのシャツ、デザインが良いねと周りからよく言われます」と話すように、緩いデザインが周りからも人気だそうです。

11-1 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲『MHWキャンプ4ショートスリーブ T』¥5,720(税込)

12-1 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲『ハードウェアプルオーバーフーディ』¥11,000(税込)

パンツは『インディアンリッジパンツ』がストレッチの利いたアイテムで使いやすく、足元がキュッとジョガータイプになっているのも好きなデザインとのこと。寒いスイスでは上下のダウンジャケット・パンツが欠かせず、軽くコンパクトで助かったようです。また部屋の中で着用していたと話す『モンキーフリース』は「モコモコしていて暖かく、ゆっくりできてとても良かった」と大のお気に入りのようでした。

13-1 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲『インディアンリッジパンツ』¥14,300(税込)

14 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲『モンキーフリースジャケット&パンツ』¥20,900&\19,800(税込)※現在は販売されておりません。2021年秋ごろ再発売予定。

15-1 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲『スーパーDSストレッチダウンフーデッドジャケット』¥45,100(税込)※現在は販売されておりません。2021年秋ごろ再発売予定。

ボルダリング初心者も岩で楽しめる

このように岩をこよなく愛する一宮さんですが、初心者の内からすぐに岩へ行ってもクライミングの楽しさに十分触れられると話します。

「岩と聞くと“高くて怖そう”とか“難しそう”とよくイメージされるかもしれませんが、ボルダリングなら低くて簡単な岩も多く、きちんと情報を収集し安全を確保すれば初心者でも岩に行っても大丈夫です。岩からクライミング始めたという人が稀にいますが、心底羨ましいと感じます」

16-1 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

また一宮さんは岩場でクライミングをするだけでなく、アウトドアを楽しむことも好きだそうで、一宮さんおすすめのスポットも。

「関西なら、キャンプもできる京都の笠置や、川遊びなどでワイワイ楽しめそうな雰囲気の奈良の御手洗あたりが初心者の方でも楽しめるのではないでしょうか」

好きなことだけをやって“オリジナル”でいたい

帰国後はルートセットの仕事をしながら、週一で岩に通う日々を過ごす一宮さん。スイス遠征で楽しさを覚えた岩の開拓を中心に据え、自分が好きなことに取り組める環境を作るのが直近の目標だと話します。

「仕事として好きなルートセット、自分のクライミング、岩場開拓、そのバランスを上手くとりながら、好きなことに時間をつぎ込みたいです。ただ自分で見つけた岩を登ることも楽しいけれど、既存課題でグレードが確立されたものを登ることにも大きな意味があります。コロラドで“Creature from the Black Lagoon”を登り、V16が達成できたあの感覚はもちろん格別でした」

17-1 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

▲2018年に完登した南アフリカRock LandsのThe Finnish Line(v15)。(写真協力:Chikara Ishizuka)

一方で、将来的に自分がどのようなプロクライマーになっているか今は全くわからないとも話します。

「自分がプロクライマーとして小山田大さんや平山ユージさんみたいになるかと考えると、たぶん違う姿だろうなと思います。かと言ってスイスで共に過ごしたジュリアーノやシャルルともきっと違います。周りの人たちの良いところを吸収して自分のものにはするのだろうけれど、彼らの真似じゃなくて“オリジナル”でずっといたいです」

一宮さんはスイス遠征を終え、これまで以上にクライミングに対する考え方や楽しみ方に幅が広がり奥行きができたように見えます。今後彼がどうオリジナルで居続けるか、どんなクライミングでファンを驚かせてくれるか楽しみに見続けていきたいですね。

18-1 世界を翔けるロッククライマー・一宮大介のスイス遠征記

プロフィール

一宮大介
1993年、大分県生まれ。2009年にクライミングを始め、外岩とコンペの双方で結果を残す。近年は外岩にフォーカスし、17年は宮崎・比叡山の「ホライゾン」(V15)を小山田大、白石阿島に次いで完登。また、同年9月にはアメリカ・コロラドの「Creature from the Black Lagoon」を登頂し、V16課題を初めて完登したアジア人としてピオレドールアジアにノミネートされた。

2012年 アジアユース3位
2014年 Gravitiy Reserch tour 優勝
2015年 Japan Cup 10位(日本代表入り)
2015年 和歌山国体 優勝
2016年 岩手国体 4位 
2017年 愛媛国体 6位 

Text:植田 幹也
Photo:一宮 大介

Keywords

キーワード

2021.05.21