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2022.03.02

パリの頂を目指す二人のクライマーの現在地

リードW杯優勝など数々の実績を誇る是永敬一郎と、昨年は日本代表にも名を連ねた若手有望の青柳未愛。パリ大会出場を見据える二人が語る現在地とは。

クライミング界にとって初の4年に1度のスポーツの祭典

──2021年夏、コロナ禍によって開催が1年延期された4年に1度のスポーツの祭典・東京大会が開催され、スポーツクライミング界にとっては、初めて正式種目となった記念すべき大会となりました。今大会を二人はどのように感じました?

是永氏:男子は優勝候補とされた選手たちが軒並みこけてしまって、金メダルはスペインの新生が獲得しました。トップ選手たちが苦戦する姿を見て、この大会のプレッシャーというのはやはり独特なものがあるんだということを感じましたね。

青柳氏:私もそう思いました。男子も女子も技術面はどの選手もすごいのはもちろんなんですけど、それ以上にメンタル面のコントロールの大切さ、凄さをすごく感じましたね。

──二人が印象に残っているシーンはありますか?

是永氏:僕はなんといっても男子の決勝最後のリードでオーストリアの選手が完登したシーンですね。あれは本当に痺れました。ものすごくトレーニングを積んできたことが見ていてよくわかったので、完登した瞬間は本当に感動しましたね。

青柳氏:私はやっぱり女子で日本人選手二人が揃って表彰台に乗れたことが印象に残っています。二人とも得意のボルダリングでかなり苦戦していたんですけど、スピードの順位が良かったのでリードでまだチャンスがあるなと思っていました。最後はもう祈りながら見ていたので、メダルを獲得できて本当に良かったと思います。

1-3 パリの頂を目指す二人のクライマーの現在地

──日本の男子勢はかなり苦戦を強いられた結果になりましたが、是永選手は二人を見ていてどう感じました?

是永氏:男子は調整不足があったり、予想外の展開もあったりと、かなり苦戦しましたね。二人が本来の力を出せればもうちょっといけたんじゃないかと思います。一人は決勝に進出できましたけど、彼の大会直前のトレーニングを見ていて、かなりいい調子だったので「これは確実に優勝するな」と思っていました。だから正直、4位というのは「もったいないな」と思いましたね。

青柳氏:スピード決勝でミスは本当にもったいなかったですよね。

是永氏:それを差し引いても彼の力なら金メダルは獲れると思っていたので、結果を見たときは正直びっくりしました。優勝は本当に意外な結果でしたけど、逆に言えばどの選手にもチャンスがあった大会だったのだと思います。

是永氏:女子の金メダルを獲得したスロベニアの選手はさすがでしたけど、彼女の登りについてはどう感じた?

青柳氏:ボルダリングもリードもすごく安定感があるんですけど、やっぱりいつものパフォーマンスではなかったように感じました。彼女ほど強いクライマーであってもこの大会のプレッシャーはものすごかったんだと思いました。

2-2 パリの頂を目指す二人のクライマーの現在地

コロナ禍でのクライミングと日々のトレーニング

──昨年からコロナ禍によって、これまでとは違う環境でクライミングに取り組んできたと思います。この期間、二人はどのようにクライミングと向き合ってきました?

是永氏:僕はほとんど変わりませんでした。コンペも好きで、外岩も好きですけど、僕は“クライミング”そのものが好きなんですよね。コンペが開催できなかったり、遠出ができなかったりしても、変わらずにジムでは登ることができました。だから僕の中ではそれほど大きくは変わらなかったです。

青柳氏:私はジムがやっていない時期は、クライミング以外のトレーニングをしていました。ジムの営業が再開してからは「コンペはいつか必ず来るもの」という意識で、いつ来てもいいようにトレーニングをしていました。

──コンペがなかったことでトレーニングやクライミングの取り組み方で、これまでとは違った部分があったと思うんですが、その中で何か発見や感じたことはありました?

是永氏:コロナ禍になって変わったことは、トレーニング面ではクライミング以外のトレーニングを全くやらなくなりました。

青柳氏:どうしてですか?

是永氏:とくにこれといった理由はないんですけど、これまでと比べて活動が制限される中でもっとクライミングと向き合った方がいいと思ったんですよね。クライミング以外のトレーニングを排除して、クライマーとしての純度を高めるということを意識するようになりました。

青柳氏:私の場合はコロナ禍の前からパワーがないことが課題でした。だからジムで登れない日々が続いたことで、パワー不足を補うために筋力トレーニングに力を入れていました。

──それぞれトレーニングの話がありましたが、二人はトレーニングのときにどんなことを意識しているんですか?

是永氏:クライミングにしっかりと向き合うということです。やっぱり、ちょっと登りたくないなとか、「皮が痛いから今日はいいかな」と思う日はどうしてもあるんですよね。でもそういった日でもクライミングと真摯に向き合うというのは一番意識していることです。

青柳氏:私は苦手なことを避けないで、ちゃんと向き合うことですね。得意な部分を伸ばすことは大事だと思いますけど、それだけでは限界があると思うんです。だから苦手なことを潰していくことは成長する上で必要なことで、日々のトレーニングでは苦手なことと向き合うことをメインにやっています。

3-2 パリの頂を目指す二人のクライマーの現在地

「スピードが単種目になって可能性が一気に出てきた」

──東京大会ではスピード・ボルダリング・リードの3種目の複合でしたが、パリ大会ではボルダリング・リードの2種目の複合とスピードの単種目に分かれます。このフォーマットの変更についてはどう感じていますか?

是永氏:スピードが単種目になったことで、可能性が一気に出てきたという印象です。スピードは今までやってきたリードやボルダリングとはかけ離れている種目なので、まず種目自体を受け入れることに時間がかかりました。クライミングの楽しさはわからない課題、難しい課題に挑戦することだと思っているので、その要素がないスピードに楽しさを見出すのが難しかったですね。

青柳氏:私はスピードが苦手だったというわけではなく、コンバインドジャパンカップではスピードに助けられた部分もありました。ただ、これまでとはまったく違うスピードという種目をなかなか楽しいと思えなかったですね。2種目の複合になったことで、ボルダリングとリードに集中できるのでやりやすくなりました。

──2種目になったとはいえ、それでも複合種目であることは変わりありません。これまでのようにボルダリング、リードの単種目ではなく、“複合”という意識はトレーニングの上でも強くなりましたか?

是永氏:どっちかに偏らないようにはしています。ただ、だからといって半々にすると自分の良さも消えてしまうので、比重をどちらかに置くようにコントロールはしています。

青柳氏:これまでリードをあまりやってこなくて、コンペの1ヶ月前に集中的にやるという感じでしかトレーニングしていませんでした。それを週1とか、2週間に1回でもいいから継続してトレーニングするというように変わってきました。

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──是永選手の場合は、リードが中心でボルダリングの割合も増えてきたという感じでしょうか?

是永氏:逆ですね。リードをもう少しやらなければいけないなと思っています。というのも、ここ最近はボルダリングしかしてこなかったので、もうちょっとリードに力を入れる必要があると感じています。

青柳氏:どうしてボルダリングばっかりだったんですか?

是永氏:鳳来の空華(5.14c/d)を登ったときにボルダー力が足りなくて、ムーブができなかったんです。そのためにボルダリングに力を入れていたら楽しくなってきて、ボルダリングがメインになってしまったという感じです。

是永氏:青柳選手はリードへの意識は上がった?

青柳氏:上がりましたね。「やらなきゃ」って思うようになりました。やればやるほど持久力がついて登れるようになるし、登れるようになったら楽しいなって思うようになりました。今では「やらなきゃ」ではなく、「やりたい」と思うようになりましたね。

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